コミック感想『アロイス』萩尾望都 あすかコミックス

なんとなくいい少女漫画が読みたくなって、読んでしまった。

萩尾望都作品で、読みきりに限るならば一等好きな作品に挙げたい『アロイス』。初出が1976年だから、もうかれこれ27・28年前の作品になるんですね。信じられない。

どうしてこう、萩尾さんの作品に出てくる男の子・女の子というのは、清廉で可愛らしいのだろう。普通の少女漫画というと、男女どちらにも過剰な「男の子らしさ」「女の子らしさ」の演出があって、それが少し鼻についたりするのだけど、この頃の萩尾さんに限っては全くそういうことが無い。この『アロイス』に出てくる、ルカスとアロイスの両方に愛されてしまう女の子も、とても可愛らしいですね。どうしてこんなに少女の可愛さが巧く描けるのか。ルカスの素直さもまたとてもいとおしい。肉体を持ちたがるアロイスの意識と、自分だけ生き残ってしまった罪悪の板ばさみにもがき苦しむ彼は、それでも、実に少年らしい伸びやかさと明るさを失わないんですね。

私にとって萩尾望都が特別な漫画家であり続ける理由も、その辺りにある気がする。
男の子だけかっこよく描ける人ならいくらでもいる。女の子もまた同じ。
これは残酷な物語ですが、いつ読んでも、少年少女特有の『可愛らしさ』を私に思い出させてくれる作品です。
絵柄もとても美しいし。私にとって、萩尾さんのピークはこの前後の時期ですね。もう、どのページを切り取っても素晴らしい作画の数々。本当に巧いね。私が好きなのは、ルカスが鏡に向かって銃口を向けるところ。鏡に映るルカス(アロイス?)の姿と、実像のルカス。とても画にするには難しい所だと思いますが、あっさり読み流せる位にさりげなく描いてて、もー本当にしびれる。
構成も実に鮮やか。鮮やか過ぎて怖い!


何はともあれ、萩尾望都は永遠です。