コミック感想『河よりも長くゆるやかに』 

吉田秋生 ISBN:409191005X
久しぶりに『河よりも長くゆるやかに』を読んだ。吉田秋生の代表作と言うとまず挙げられるのが『BANANA FISH』であろうし、私もこの作品は大大大好きで、今でも三年に一度位眠れぬ夜に読み返しては、ますます眠れなくなっているのだけど、改めて「吉田さんの作品で何が一番好きか」と尋ねられたら、私はこの『河よりも〜』を挙げるかも知れない。
ストーリーは男子校に通う三人のお年頃の高校生の、まぁちょっと下品でおばかでおセンチな日常生活がメインなのだけど、もうそれが実に生き生きとテンポよく描かれていて、登場人物たちは皆明るくて前向きで、憎めない優しい人たちばかり。彼らはただ能天気に生きてる様だけど、実は心のうちには誰にも言えないシビアな現実を抱えていて・・・
そのシリアスとギャグの部分の配分が、私の好みとぴったりなのかも知れない。そういう作品を読んでると、楽しい筈の場面で泣きたくなり、泣ける場面では不思議と暖かい気持にさせられる。
大友克洋の影響受けまくりの初期の絵柄も好き。これをプチフラワーで連載していたというのが素晴らしい。私もそんなプチフラワーが読める時代に生きたかった。吉田さんは名前と作品の印象から男性だと勘違いされる人も多いだろうけれど、作品を読んでみると、その感性はやはり繊細で、少女漫画読者からすれば青年誌的に映るであろうこの作品も、私は掲載誌がプチフラワーであるべきだと思うし、いきなりスピリッツやビッグコミックにこれを持ってきても違和感があるだろうと思う。(ちなみに下に載せたシーンは、私が個人的に吉田さんの女性的感性が光っているなと思った場面です)


まー色々陳腐な言葉を並べましたけど、ただね、もうただただ私はトシちゃんが好きなんですよ。トシちゃん最高。



トシちゃんと三原さんが二人でこたつで話してるシーン

 「じゃああんたは犬にかまれたこと、忘れられるの?」
 「え・・・
  あ・・・いや・・・」
 「あんまりいーかげんなこと 言わないでよ」

 ・
 ・
 ・
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 「ン?」
 「別になんにもしねぇよ
  おまえ 言ったろ 人間の重みって気持いいって
  だからちょっとこうしてようぜ」
 「・・・すけべしなくていいの?」
 「しないしない」




 「・・・・・・・」

 「サンキュ
  トシちゃん」

美内すずえが「本当に良質な漫画は十年先にも普通に読まれなければならない。私もそれを意識して洋服などにもあえてトレンドを取り入れない様にしている」といった趣旨の発言をしてましたが(美内先生の場合、洋服がどうこうとかそういう問題の古さじゃない気がするけど・・・)、『河よりも〜』みたいな漫画はまさにそういう漫画なんじゃないかな。私の生まれた年が初出のこの作品も、不思議とズレを感じない。現代の高校生たちにとってはそうじゃないのかな?分からないけど。十年先の子たちにもこういう漫画を読んで欲しいな。

十年後の話をしよう、十年したら、またその先の十年の話をして・・・そうすればきっと永遠にも手が届くんだ、っていうのがテーマの創作まんがを読んだことがありますけど、本当、そういうかたちの永遠になって欲しい、大好きな作品です。